四国山岳紀行 No352-060621
樫戸丸 (かしどまる) 1566m △3 樫戸丸
徳島県美馬市/那賀町
地図 谷口(北東)

登山口から見た樫戸丸 オオヤマレンゲの開花
樫戸丸は高城山と天神丸の中間辺りの主稜線にあって、すぐ北側直下を剣山スーパ林道が走っている。近年、頂上付近に咲く「天女の花」オオヤマレンゲで有名になり、スーパー林道を経由して手軽に登れることから、訪れるハイカーも多くなったと聞く。僅かに生き残ったこの木は県の絶滅危惧種に指定され、周囲にロープを張られて保護されているので、中に入って根元を踏み固める事のないように注意してほしい。

尾根筋に咲くヤブウツギ 快適な尾根道を登って行く
土須峠からガタガタのスーパー林道を西進すること30分、高城山を迂回して西側の眺望が開けると、真向かいに大きく谷を隔てて、林層豊かな樫戸丸が目に飛び込んでくる。その左肩に三角錐の天神丸が頭を覗かせている。これらの山はスーパー林道が無かった頃は地形的に見て、頂上に立つには相当難儀な山だっただろうと思いながら林道の恩恵に感謝するが、反面この自然破壊がもたらす影響は計り知れない。

下草に覆われた林床 林道脇に咲くウツギ
高城山には頂上近くにアマダスレーダ基地が建って、林道から基地まで金属の階段が付けられ、高城山の南面はすっかり様変わりしていた。スーパー林道はそんな施設を横目で見ながらコルまで下って1424m峰を巻くと、そこは登山口「風の広場」であった。広々と整地された奥に樫戸丸への登山口がある。

風の広場から登山道に取り付く
早朝なのでまだ誰も来ていないようだ。広場からはこれから登る樫戸丸の頂が奥に聳えている。身支度を整えて7時半登山道に分け入っていく。最初は林の中の平坦な道から緩い登りが続き、間もなく最初の小ピークの登りとなる。わりと大きなブナが点在していて目を楽しませてくれる。高度が上がるにつれてブナやシャラからダケカンバやシロモジの植生に変わっていく。

癒されるブナの点在する尾根道
林の切れ目と道脇には地面を覆うようにフタリシズカの群生が、バイケイソウや笹も見られるが茶色に変色して元気が無い。林に混じってヤブウツギの赤い花が目立つ。林道脇にも多いがこの季節、ウツギやガクウツギなどの白い花のユキノシタ科の花が賑やかに咲いている。前衛のピークの登りにかかると暫らく急な登りが続く。そして道は平坦になって、もう一度坂道をクリアして行くと頂上は近い。

フタリシズカの群落の中を行く
頂上直下の岩場の下に天女の花はあった。ロープの張られた中に僅かに五、六株だけひっそりと周囲の木立に遠慮するかのように固まって生えている。花は五分咲きくらいだろうか。ふっくらと真っ白な蕾がまだ多い。一株に数えるほどしか咲かない控えめな花で、ナツツバキやヤマシャクヤクにも似た純白の花は、かえって見る人の心情を擽るのだろうか。

貴婦人にも譬えられる天女花
ここから頂上へはワンピッチである。足元に露岩が多くなってくると開けた頂上直下の尾根に出る。フタリシズカやバイケイソウ、シコクブシの群生する中を登りつめると山名板と三角点の有る山頂に着いた。眺望は至ってよく南西方向を残すのみとなる。振り返ると高城山が存在感を見せている。西側には天神丸の右肩に一段と高く剣山が霞む。

眼下にスーパー林道 眺望のやすらげる山頂
北側は深い谷の穴吹川向こうの山肌に点在するのは森遠辺りの集落か。汗ばんだ顔に涼風が吹き抜けていく。眺望の開放的な去りがたい頂上である。少し下った岩の上で早い昼食を済ませて下山していく。途中で三組のお登さんに出会った。どの人も「お早いですね。咲いていましたか」と言う。もちろんこの人達もオオヤマレンゲを見に来た人達であろう。

山頂から東に高城山 西に天神丸と奥に剣山
「少しですが咲いていますよ。お気をつけて」 登山口まで帰ると徳島ナンバーの車が三台あった。あの人達も今頃天女の花に魅せられているだろうと想像しながら、風の広場から長い稜線が続く頂上を振り返った。
《コースタイム》 脇町インター 10分(車)→山川町 50分(車)→雲早トンネル 40分(車)→
風の広場登山口 1時間→前ピーク 30分→頂上 20分→前ピーク→
40分→風の広場登山口
歩行時間 約2時間30分 登山道 整備されている 難易度 12B45