四国山岳紀行 No116-970525 甚吉森(じんきちもり) 1423m △2(甚吉森)
                 高知県安芸市馬路/徳島県那賀町 地図 赤城尾山(南東)  ページの最初に戻る


          中川林道からの甚吉森                       水を湛える魚梁瀬湖

広大な魚梁瀬ダム湖を背景に聳える山々、その中で代表されるのが千本杉で有名な千本山、そしてその東奥に聳える甚吉森(1423m)がある。登山口は徳島、高知の両県側からあるが、今回は高知県側の魚梁瀬の丸山団地を過ぎて 4キロほど行った石仙(こくせん)で中川林道に入り、10キロほど行くと登山口がある。林道を 6キロほど入った所に森林管理所の通行止のゲートがあるので、車で入る場合前もって許可を得ておこう。そうでなければゲートから 4キロほど登山口まで林道を歩くことになる。


         石仙の分岐にある標識                        石仙の中川林道入口

細いガタゴトの中川林道をつめて車を進める。深い谷を左に見ながら 6キロほど行くと、左右に林道が分かれる手前で営林署(現在は安芸森林管理所管轄)の新しく出来たゲートがあって鍵がかかっている。この林道は雨が降る度に落石や土砂崩れが多くあって危険なのでゲートが設けられたのもうなずける。地図を見てみると登山口までまだ 4キロほどあるようだ。これはしまった、予定外である。仕方がないので車を置いて登山口まで林道を歩くことにした。


                         深い谷間の中川渓谷

まだ車が無かった若かりし頃の昔は、バス停から二ッ岳や東赤石山の麓の登山口まで、重いリュックを背負って林道を何キロも歩いたことを思えば何のことはないだろう。ゲートを過ぎるとすぐに林道は左右に分かれる。甚吉森へは橋を渡って左の林道を谷沿いに進んで行く。幸い林道は最近ブルドーザで整備されたのか、路面が平で歩きよい。奥に高い山が屹立しているが、どれが甚吉森か見当がつかない。


                        賑やかに咲くガクウツギ

地図には、谷と林道が右へ大きくカーブした所に登山口があるようなので、ひたすら林道をつめて行く。この季節、道筋にはガクウツギやマルバウツギの白い花、ベニウツギやヤマツツジの紅い花がこぼれ咲き、それらを撮影しながら歩くので長い林道歩きも退屈しない。所々大きく山側から土砂崩れした跡があり、その都度この林道の整備に大変だろうと思いながら歩を進めるが、知らない初めての道は長く感じる。


                        ベニウツギとマルバウツギ

深い谷を巻きながら付けられた林道は、山端のカーブを曲がっても、前方にまた山端のガーブが続いている。それも遥かに遠くといった感じで、行けども、行けども、目的地が近ずいて来ないのには、うんざりする。増して肩からぶら下げた重さ5.5キロの大型ビデオカメラ、手にさげた重さ3.8キロの三脚がじわりと堪えてくる。どうしてこんな重いものを持って山へ登らなければならないのだろうか、ふっと疑問が走る。



          甚吉森の前山が聳える                      奥に甚吉森が見えている

リュックだけの手ぶらだと楽なのに、おい!お前は登山記録を撮影するために山に来たのだろう、ガンバレ! ふっと我に還ると、もう一人の自分がそう励ます。いつもながら左肩が痛くなれば右肩に、右手がしんどくなれば左手に交互に持ち替えながら歩いている。最近は小型のデジタルカメラになって随分楽になったが、つい最近まではそれで頑張って来た。若いときは体力もあるが、それにしても登山には余分な荷物は少しでも堪えてくる。


                         砂防堤の右側が登山口

ふと上に動くものの気配がしたので見ると、大きな動物が急な斜面をよこがけに逃げて行くではないか。カモシカだ、四国の山でカモシカに出会ったのは初めてである。さすが山深いこの地方にはまだ生息しているのだ。深い谷を見下ろしながら 2時間近く歩いただろうか、やっと谷と林道が右へ大きくカーブしている少し広くなった所に着いた。今度は大きな鹿が 2頭草を啄ばんでいる。私と目線が合うと慌てて林道の奥へ走り去って行った。


         登山口から見た前山のコル                    沢を渡って登山道に入る

甚吉森の登山口はこの辺りにあるはずだ。上から沢が下っていてすぐ上に砂防堤があり、横の茂の前にテープを巻いた甚吉森と書いた消えかかった小さな標識があった。踏跡は茂の中を抜けて砂防堤の上の沢に出る。注意して沢の対岸の踏跡に入ると、やっと登山道らしき道になる。人工林のきついじぐざぐの登りのあと、前山の稜線に取り付く。


            コルへの登り                         コルから見上げた前山

この辺りはコメツツジのような小さい葉のウンゼンツツジが多いが、既に開花時期が終わっていたのか花は見られない。木の間から両側の谷を垣間見ながらスズ竹の間を登って行く。1 時間ほどで千本山方面から来た縦走路とのコルに出る。千本山方面からの縦走路はかなり荒れているようなので、このルートはかなりの薮漕ぎとなろう。


          スズタケの潜りもある                        樹間から西側の眺望

コルまでは営林署の手入れがされているので歩きよいが、ここから甚吉森へは道は荒れており、スズ竹や権木の枝を掻き分けながらの登りとなる。コルからは杉の巨木が茂る前山が見上げるように聳えている。コルから少し右に進んで、覆い被さるスズ竹の中を潜り抜けると、小さな沢を渡って大規模な崩壊場所に出る。


                        杉やブナの大木が見られる

何も掴まる所が無いザラザラの急な斜面の細い踏跡を、転落しないよう用心深く渡ると、ここから急な甚吉森の登りにかかる。登山道は手入れがされてないのか、権木の小枝やスズ竹が道を覆っていて歩きづらい。肩から下げたビデオカメラや三脚が引っかかり、歩きにくい事この上ない。登山者も少ないのだろうか、道は荒れていてあまり踏まれてないようだ。


             甚吉森頂上                           コルから見た千本山

展望の利く所で一本立てる。眼下には深い谷を隔てて、樹林に覆われた千本山が下の方に見えている。登るに従い所々に杉やブナの大木が目立ってくる。特に杉は朽ちかけた巨木が多く、無残な木肌を曝している。そんな光景の中のスズ竹と権木の登山道というより、朽ちて倒れた大きな倒木の残骸を避けながら、踏跡をジグザグ登りつめると、頂上に近い林の中の稜線に出て道は平坦になり、林が切れると開けた頂上に飛び出す。


          山頂から野根山方面                         頂上の二等三角点

コルから1 時間10分、登山口から 2時間10分かかって頂上に立つ。平坦になった頂上には消えかかった国土地理院の標識と二等三角点があり、南北に視界が開ける。南側は深い谷の樹海を隔てて、幾重にも重なる山並の彼方に、遥かに太平洋を望む。北側は深く刻まれた那賀川流域の広い谷を隔てて、一番目に付くのは黒々とした石立山で、更に右奥にはひと際高く剣山連峰が浮かぶ。



                    石立山や剣山が目立つ山頂から北の眺望

幾重にも折り重なる山並と、幾筋にも刻まれた深い谷に圧倒される。撮影を終えたところで50代のご夫婦が登って来た。高知市から来たそうで、前もって営林署にゲートの鍵の番号を聞いていたので、ゲートを開けて登山口まで車で来たそうだ。そんな事を知っていれば登山口まで 4キロも歩かなくて済んだものを、まあいいや、その代わりゆっくりと自然に接して、カモシカや鹿に出会えたではないか。



         中央のピークは石立山                         北に剣山系の山塊

『 え! ゲートからあの道歩いてきょったんで! 随分時間かかったでちょう、わいらだとしんどちゅて、ようあるかんちょう、昨日来よったときゲートが閉ちゅったんで、引き返して千本山に登っとたんですらい。あそこも先はゲートが出来ちょんで、奥へは入れませんちわ、魚梁瀬の営林署に立ちゅって、歩くのは大変ちゅにゲートから車で林道に入る許可を貰ったんやけど、もし事故がありよったら自分で責任を取るように言われちゅって、住所や名前、車の番号などいろいろ聞かれちゅたよ。

昨日は千本山に登ちょって、昨夜、魚梁瀬の旅館に泊まっとりよった。ゲートの前に愛媛ナンバーの車があっとんで、てかり泊りがけの渓流釣りの人のやと思ったで驚きましたよい。帰りはよかったらわい達の車に乗っておりませんか。』親切な言葉に感謝しながら弁当を食べていると、木頭村側から40代の男の人が一人ふうふう言いながら登って来た。登山道の状態を聞けば、魚梁瀬側より良いようだ。


                          山頂から南の眺望

魚梁瀬側の中川林道は落石や土砂崩れが多いので、登山口まで車で入れるのは運の良い人だけだとか、また魚梁瀬の営林署も無くなるようなので、今後、林道や登山道の管理もどうなるか心配だ、などの会話を交わしながら、奥深い甚吉森頂上からの雄大な眺望を満悦して、足早に下山する。登山口の砂防堤の上で一本立てて待っていると、20分ほど遅れて車のご夫婦が降りて来た。


                        ヤマツツジとマムシグサ

軽のバンに同乗させて貰って林道を下る。途中カモシカなどに出会った事などを話しながら、昼過ぎの 1 時頃、登山口から20分ほどでゲートまで帰り着く。やはり車は早い。歩いて林道を下っていたら午後 3時近くになっていただろう。『助かりました、ありがとうございます。お気を付けて』親切なご夫婦と別れる。午後 5時自宅に帰り着く。車のメーターを見ると380キロ走っていた。

《コースタイム》 安田 25分(車)→馬路 20分(車)→丸山 15分(車)→石仙 10分(車)→ゲート
          1 時間30分→登山口 1 時間→コル 1 時間10分→甚吉森頂上 60分→登山口
          15分(車)→ゲート 10分(車)→石仙 15分(車)→丸山 25分(車)→馬路
          馬路 25分(車)→安田 50分(車)→領石 1 時間35分(車)→自宅 難易度 123C5
          天狗森.稗己屋山.西又山.宝蔵山.甚吉森.方面問合せ先
           (安芸森林管理所魚梁瀬事務所TEL08874-4-2311)
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