九州山岳紀行 No001-670512 韓国岳(からくにだけ) 1700m △1(西霧島山) 
                  宮崎県小林市/えびの市/鹿児島県霧島市 地図 韓国岳(南東)  山岳紀行トップヘ


            韓国岳からの南望                            北側からの韓国岳

ツツジのキリシマで知られているこの霧島連山は、肥薩国境から小林、宮崎以南、鹿児島県境に大きく跨り、火山灰や火山礫が厚く堆積してできた、シラス台地と呼ばれている火山群で、名の如く山頂付近は霧のかかっていることが多く、その峰数は全部で23座あり、完全な火山が15、火口湖8を数え、その火口の多くは水を湛えて、美しい火口湖となって南国的な明るい風景を醸し出している。また豊富な山麓の温泉はひなびた山小屋温泉から、高級ホテルの温泉まで数多くあり、交通至便と相まって多くの登山者に親しまれて、登路や指導標も九州の山では最も整備されている。最高峰は韓国岳(1700m) で単独火山で、これほど膨大な山容の山は九州では他に無く、ここから新燃、中岳を経て霊峰高千穂峰への縦走となる。またこれらの支脈である甑岳、大幡山、夷守山などがあり、これらの山に達するには道が相当荒れており、かなりの時間と労力を要するので、特別にこれらの山を探る人以外は通っていないようである。

近年バス路が飯野駅、小林駅、南の霧島温泉からも、1200m のえびの高原まで通うようになったため、霧島登山は大変至便になった。私達も鹿児島から林田交通のバスの乗客となって霧島高原に向かった。車窓から時折り見える霧島の山々は、中腹一帯に霧がかかって浮かび出た峰々の頂上は、霧島の名にふさわしいながめである。コトンというバスの揺れる音に目が覚めると、もうバスは霧島温泉郷に入っていた。今朝8時に鹿児島を発って昨日の疲れで1時間近くも寝入ってしまっていた。バスガイドの丸尾温泉です。という声に気が付くと、辺りは山峡に入っているらしく、樹林の間に湯煙が立ち、旅館などが並んでいていかにも温泉郷という感じだ。バスは明礬、硫黄谷の山小屋のような貧疎な温泉郷や、高級なホテルや旅館の並ぶ林田温泉郷を経て、いよいよ本格的な山道を登りだすと心配だった雨が降り出した。

高度が上がるにつれ雨も強くなり、ここ数日、大陸から張り出した高気圧で安定した五月晴れが続いていたせいか、鹿児島を発つときに、これから向かう霧島の山々に雲がかかっているのが気になったが、霧島高原を前にしてとうとう雨になってしまった。前日までは素晴らしい快晴だったが、夕刻辺りから白い雲が波状に広がっていたので、霧島では一雨あるのではないかと思っていた予感が当たったようだ。高度がどんどん上がるに従い気温が下って、車内に暖房を通すほど寒くなりだした。くねくねとバスは霧島連山の南西側を大きく迂回しながら、右に左にとカーブして登って行く。道が緩やかになり赤松林の中を行くようになる。樹木が次第に少なくなり視界が開けだすと、バスの終点であるえびの高原に近づいたようだ。有料道路の料金所をくぐると、そこには広々とした高原が広がっていた。

バスを降りると風が強く吹き飛ばされそうだ。五月の半ばといえどもここは1200m の高原だけに、雪でも降りそうな雨混じりの強い風に寒く、寒冷前線を伴った気圧の谷の通過である。真横から吹き付ける雨風に小走りに宿舎に駆け込んだ。この分だと今日一日降りそうだ。午後から池めぐりをする予定だったが、仕方がないので今日はゆっくり部屋の中で休養することにした。窓の外を見るとザアザアと本降りになり、ガスが勢いよく飛んでいる。気温は下がり部屋の中でも寒くなったのでスチームを入れてもらう。雨風は次第に強くなり、ザッザッと宿舎の屋根を打ち、風が窓の戸をカタコト揺する。翌朝も雨模様で視界が悪く、稜線にはガスがかかりそのガスが勢いよく飛んでいる。しかし9時ごろから急速に天候の回復の兆しが見えて、雲はどんどん切れて青空が広がってきた。もう雨の心配がなくなったので、昨日午後からの予定であった池めぐりを昼までに済ますことにした。

えびの高原周辺にあるこれらの池は火口に水が溜まった火口池で、周囲の山との対照が美しいので知られている。立ち込めていた霧も大分晴れたので、視界が開けて眼前には広い高原の向こうに、双子峰のような韓国岳が裾野を引いて現れる。私達は池めぐりコースである白鳥池から六観御池、不動池と回ることにした。ヒュッテの前からレストセンターの横を通り、真直ぐ北へススキ原を横切ると、自然観察路の入口に着く。まだ薄く霧の残っている清々しい新緑の林の中を20分も登ると、鉄筋でできた立派な休憩所があり、その向こうに白鳥池が澄み切った綺麗な水を湛えているのが目に映る。深さは50cmぐらいだろうか、数多い霧島の池の中でも最も浅いので、冬は凍りやすく天然スケート場として利用されているようである。白鳥池を跡に整備された林の中の遊歩道を進んで行く。両側には遅咲きのヤブツバキの花が咲いており、ノリノキ、リョウブなどの大木が多く、静まり返った森の中に霧が立ち込めて小鳥のさえずりだけが響く。

白鳥池から15分も歩くと杉の老樹が聳えている六観音祠のある所に着く。眼前には美しいさざ波をたてて水を湛えた六観御池の岸にでた。池の岩壁にはキリシマツツジが映えて実に美しい。この池は直径440m、深さ12m あまりで火口壁の周りには、モミやブナ、カエデなどの明るい森林に囲まれた美しい池で、北岸には六観音の祠と東霧島神社の上宮があり、六観音は牛馬の神として山麓の人達の信仰で祀られている。静かな六観音池を後によく整備された遊歩道脇には、ブナやスギの老木が天高く枝を広げて、薄く立ち込める霧の中の新緑に溶け込みそうな清々しさを感じる。やがてモミの多い火口を半周近く回ると、丈の低い赤松の林に変わり、ミヤマキリシマツツジが地を覆うばかりに咲いている。

暫らく行くと左に飯野方面、甑岳へ行く道が別れ、右に硫黄精錬所へ下る道があるが荒れており、真直ぐ進むと車道に出た。小林方面から登って来た有料道路はえびの高原に通じている。車道を少し下ると右側の渓流畔に露天風呂があり、地元の人やハイカーの休養所なっていて、小川から湯気が立ち上り、小屋がけの中で数人が岩風呂で入浴していた。車道を引き返し硫黄山に出る整備された自然観察路を登って行くと、荒れ果てた砦のような丘に大きな岩石が点在して、その間にミヤマキリシマツツジが一面に花を付けて目を楽しませてくれる。東側には沢山の噴気孔があってシューシューとガスが噴出しており、それが霧に混じって消えていく。ここは韓国岳西北麓の標高1300m の円錐型の丘で、硫黄山と呼ばれて硫黄が採集されている。賽の河原に下りると硫黄の侵食で、周囲の岩石は奇怪な色や形となって、うす気味悪く、硫黄のガスが風に乗って来ると、周囲は真っ白になって硫黄の臭い匂いで息ができないほどだ。

硫黄山北側すぐ下には円形の青々とした不動池がある。この池は直径210mで湖底にはウマスギゴケという青いコケが生えており、池の水の透明度がよいのでコケの青緑の色が水を通して映り、周囲の硫黄岳の錆びれた景色に相まって凄い感じの池だが、バス道が湖岸を通ったため感じが変わったようだ。じっと見つめていると紺青色に染めたような池の色に吸い込まれそうな感じがする。これで御池一周は終わったので私達は少し早いが、昼食のため宿舎に戻ることにした。今日は朝から韓国岳に登り、高千穂峰まで縦走する予定だったが、昨日できなかった池めぐりを済ませて、縦走は行ける所までとした。硫黄山を下ってススキやカルカヤの多い高原を横切り宿舎へと向かう。高原の中ほどに源泉があって、ぶかぶかと勢いよく天然の熱湯が吹き出ている。小さな松林を抜けると宿舎の前に戻り着いた。この間2時間ほどの行程だっただろうか、自然の大公園の散策は飽きることなく私達の目を楽しませてくれた。

宿舎で昼食を済ませる頃には絶好の登山日和となりだす。日光が高原に降り注ぎ周囲の景色は一層映えてくる。ここから韓国岳の頂上へは500mの高度差で約1時間の行程である。えびの高原から見る韓国岳は中央が凹んでキレット状になり、両側の火口壁は連なった別の山頂が並んでいるようだが、実は膨大な火口壁をあまり近くから見るからだろう。右肩には一段低く大きな池の堤のように見えるのは大浪池の火口壁と想像する。韓国岳の左肩麓には対照的にシューシューと音を響かせて硫黄の噴気が幾筋も立ち上っている。そこから一筋の沢が河原状になって、エビノ高原の中央を流れており、この河原沿いに付けられた登山道を進んで行く。バス終点より小林方面へ車道を少し行くと、右側に公園管理事務所があり、その先でこの道筋へ入る韓国岳への登山道が分かれている。

最初は美しい松林の中を行くが次第に木が無くなり、石のゴロゴロした河原筋の原を行くようになる。よく整備された道には指導標が要所に有るので判りやすい。道は空谷沿いに赤茶けた岩塊の転がる中を進んで行く。これらの岩塊は火山弾で、おそらく大昔の噴火のときに飛んで来たものであろうと想像する。急坂にかかりひと登りすると、硫黄山の台地に着いて硫黄の噴気が眼前に望まれる。ここで一休みということになるが、振り返ると今歩いて来たえびの高原が眼下に広がる。その中を車が右に左にとカーブしながらS字型の道路を走っている。このS字型車道はわざとこういうふうに付けられたもので、この車道を走る車の中から高原の風景が右に左にと見えるため、後で車内から見たときなるほどと思った。

空は益々晴れ上がり風も止んで、さんさんと輝く太陽の日差しは、昨日の寒さとは打って変わって初夏の感じさえしてきた。右の空谷に入って行くと左へ赤松千本林への歩道が分かれ、韓国岳へは右へ小権木の多いススキの原の登りとなる。高度が上がるに従い展望は開けて、眼下に緑の絨毯を敷いたようなえびの高原が広がる。その所々にポツンと建っている赤屋根のヒュッテや宿舎が印象的だ。小権木帯を過ぎると登山道の両側には、一面に蕾を付けたミヤマキリシマツツジが広がり、満開ともなれば周辺は花で埋まることだろう。岩石が多くなって登りが緩やかになって来ると頂上は近いようだ。暫らく登ると左側の岩壁の切れ間から絶壁になって、目眩がしそうなほど深い火口が覗いている。

登るに従い火口は大きく見えるようになり、所々足元から深く落ち込んで絶壁になっている所が現れる。頂上に出て始めてこの山の火口全体が見渡せる。直径1キロ近く深さ300mはあろうか、火口の底は水が無く草原となっているようである。火口壁に立つと足が振るえて目眩がしそうだ。1700m の三角点に立つと、今まで見えなかった霧島連峰の東南側の大観望が展開する。大火口を持つ新燃岳、その向こうには高麗なスロープの霊峰高千穂の峰、更に右側遠く桜島がきらきら光る錦江湾の中に背を張っているのが見える。続く南薩の山々、北側は市房、脊梁の山並、更に遠くに霞むは祖母か久住か果てしなく続いている。南側には眼下に大浪池が明るい周囲の景色を映して水を湛えている。大浪池は一つの独立した火山湖として知られ、直径1キロあまりの大きな池で、韓国岳から見下ろすと、南国的な明るい景観を醸し出している。

北側は深い火口で絶壁となって深く落ち込んで、火口壁にはヒカゲツツジの種類だろうか、黄色いツツジのような花が火口壁にくっつくように一面に咲いている。南東側には昭和34年に爆発した新燃岳(1421m) が、大きな火口を覗かせて今なお噴煙を上げている。山頂付近一帯の赤茶けた山肌は草木も無く爆発の爪跡を残しており、この新燃岳山頂付近一帯のミヤマキリシマツツジの大群落は見事なもので、絨毯を敷いたようにビンクに染まっている。しかし一帯に群落していたツツジも爆発のため大被害を受けた跡が伺われ、南側には大キレットができて、当時の爆発の物凄さが想像できる。新燃岳から東には尾根が延びて、大幡山(1353m) とその火口湖の大幡池がきらきら光っているのが見える。北側には韓国岳の火口を隔てて、甑岳が山頂平らな特微ある円錐峰を覗かせている。この山も直径500mの火口を持っていて、頂上にはミヤマキリシマツツジが多いようだ。

山頂で地図を広げながら周囲の山を照らし合わせるのも楽しい。ここから縦走の予定である高千穂峰までは、程遠く4時間はかかるだろう。時間的体力的に見ても今から無理なので、新燃岳近くまで行って引き返すことにした。韓国岳三角点より東に縦走路を探しながら、火口に沿って10分も行くと黒い砂のガレが下がっている所に着く。ここからガレ場を滑らないように慎重に下って行くが、ややともすると足を着く毎にガレがザラザラ流れて、体全体が流されそうになる。そんな長いガレ場をどうにか草付まで下ると、今度はコクマザサの急坂が続く。この付近は周囲に目標が無く、ガスが巻いたときなどは迷いやすい所である。急坂なのでみるみるうちに韓国岳の頂上は頭上高くなって行く。

暫らく下ると韓国岳の寄生火口である琵琶池の南壁を巻いて、権木の多い平らな尾根を行くようになり、所々に湿原のような窪地があり、キリシマツツジの多い中を20分も行くと、獅子戸岳(1428m) の禿尾根の急な登りになり、15分ほどで頂上に出た。この獅子戸岳は西は韓国岳に埋められ、南は新燃岳に破壊されて山容貧疎な小峰だ。頂上に立つと眼下の新燃岳の山肌に、ミヤマキリシマツツジが一面眩いばかりに咲いているのが、手の届くような近くに見えている。何千本何万本が集まって咲き斜面を彩っている。私達はツツジのお花畑を見下ろしながら、獅子戸岳の頂上に腰を下ろして、真っ青に澄み切った青空の下に、どこまでも続く山並を点呼しながらいろいろの思いでにふけった。

ここから手の届くように近くに見える新燃岳も往復一時間はかかるだろう。もう時計は4時を指しているので、時間的に無理と考えて新燃岳を目の前にして残念だが、ここから引き返すことにした。これから韓国岳に引き返すのに1時間少し、更にえびのまで1時間ぐらいかかるだろうと思い、日没まで山を下りなければいけないのを念頭に入れて出発する。ここから北東に下れば大幡山方面への道が分かれ、南東へ新燃岳との鞍部に下れば湯之野温泉、大幡池方面への道と交わり、そこから新燃岳の登りとなる。私達は所々満開となったツツジの中を獅子戸岳を後に下って行く。獅子戸岳を下ると韓国岳が頭上に高く聳えていて、またあの急坂を登らなければいけないと思うとうんざりする。眼前には琵琶池の火口が韓国岳の山腹にぽっかりと、大きく口をあけているのが印象的だ。


           韓国岳南面の琵琶池                          登山口からえびの高原

韓国岳の急坂にかかると相当急坂なので、時々休みながら登って行くが、こういう登りは変化が無くよけいに足が進まない。次第に休みが多くなりそれでもどんどん高度が上がるので、もう一息と頑張るが、やっとガレ場まで登り詰めれば、今度はガレ登りに下りより技術を要する。ザラザラと滑るため二歩前進すると一歩後退して、なかなか登り切れない。よく見るとこのガレは赤茶けた色をした石膏やコークスのように黒い石、硫黄を含んだ黄色い石、白い風化した石など、同じ火山の石が長年の風化作用のためか、含む成分によってこんなにも色が変わるのだろうかと、感心しながらやっとガレ場を登り詰めて韓国岳の頂上に出る。もう陽は西に傾いて昼頃賑わっていた山頂には誰も居なくなっていた。一人の青年が今登って来たのか、写真を何枚か撮ると足早に下って行った。

時計はもう五時を過ぎて日が長い季節とはいえ、山ではもう夕映えの気配が漂っている。もう一度高千穂峰や新燃岳を振り返り見ると、西日を受けて赤く染まり火口のお鉢が陰になって、黒い大きな口を開けているのが手に取るように見えており、実に素晴らしい雄大なシルエットを浮き立たせている。私達も後を追うようにして韓国岳頂上を下りだすと、高千穂の峰々は韓国岳の背に隠れて見えなくなった。えびの高原に下るともう夕暮れで、高千穂峰まで縦走できなかったのは残念だったが、今日一日ゆっくりとこの霧島の山々に侵れて爽快であった。真っ赤な夕日を受けて韓国岳と高原がエビ色に染まり、山々の陰が長く尾を引いて、やがて静かに紺紫の世界へと消えて行った。「最早日暮れじゃ迫々(さこざこ)陰るよー、赤い夕日に御山は染まる」「高い山々どの山見てもよー、霧のかからぬ山はない」「誰に見らりょと思うて咲いたよー、谷間谷間の岩ツツジ」

《コースタイム》 (第一日) 鹿児島駅 1時間40分(バス)→えびの高原 25分→白鳥池 15分→六観御池 30分→
       露天風呂 15分→不動池 15分→硫黄山 20分→えびの泊  歩行時間 約2時間 難易度 @2345
          (第二日) えびの 1時間10分→韓国岳 1時間→獅子戸岳 1時間20分→韓国岳 1時間→
                えびの 1時間10分(バス)→小林駅   歩行時間 約4時間30分 難易度12B45

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